研究の背景
2003年にHenry Chesbroughがオープン・イノベーションの概念を提唱して以来、学界だけでなく産業界においてもオープン・イノベーションは注目を集めています。オープン・イノベーションとは、端的に言えば「技術・知識・アイディアの源泉と活用を社外に求めることによって、イノベーションを興して成果を得ること」と私は解釈しています。オープン・イノベーション論は、既存のイノベーション研究を多く含みますので、「従来の研究と何が異なるのか」といった批判もあります。しかしながら、インバウンド(イノベーションの源泉を社外に求めること)とアウトバウンド(イノベーションの活用を社外に求めること)の両者を包括的に考える研究は、私の知る限り多くはありません。インバウンドとアウトバウンドの関連性や、社外に技術・知識・アイディアを求める前提としての社内組織の在り方等、まだ重要な研究の余地が残されていると考えています。
オープン・イノベーションの実態は、各国・各地域によって異なっていると考えられます。経営環境や制度が、国や地域によって違うためです。同時に、企業は国境を越えてグローバルに活動しています。オープン・イノベーションの環境や活動の相違を国際比較することができれば、企業のグローバルな活動にとって有益となるはずです。しかしながら、日本を含めたオープン・イノベーションの国際比較研究は、それほど行われてはいません。したがって、オープン・イノベーションの国際比較は、学術的・実践的に求められていると言えます。後述するように、日・米・独のオープン・イノベーションに関する国際比較研究に着手しています。
自社の領域を越えて企業活動を行う戦略を「オープン化戦略」と定義し、オープン・イノベーションの戦略的な側面を中心に検討しています。特に、新しい価値の創造と獲得という視点から、企業外部にある企業の能力や資源のの戦略的活用を考察するものです。さらに、企業単体の戦略だけではなく、企業の集合体全体の価値創造・獲得戦略も重視します。具体的には、アライアンス戦略、プラットフォーム戦略、標準化戦略、ポジショニング戦略です。また、ビジネス・エコシステムの企業(特にニッチ)がとる戦略の特徴も検討します。以上は、オープン・イノベーションとは別の研究として研究されてきたものですが、企業活動のオープン化という視点から、オープン・イノベーション論と結び付けて研究しています。
オープン・イノベーションに関する様々な議論を整理するため、横浜国立大学・環境情報研究院の安本雅典教授とともに研究・技術計画学会の学術誌『研究
技術 計画』Vol.25, No.1(2010)で特集号(「
」も発表しています。さらに、この特集号をもとに新たな執筆者を加えて、『オープン化戦略―境界を越える企業活動―』(安本雅典氏と共編著, 有斐閣)を出版します。(現在、編集作業を行っています。)
(2013年~)に研究分担者として参加しています。このプロジェクトでは、米山教授をリーダーとする研究チームが日本、UC BerkeleyのHenry
ChesbroughとPurdue UniversityのBranswick Sabineがそれぞれ米国とドイツのアンケート調査を担当しています。また2015年から、北海道大学の岩田智教授(研究代表者)の科学研究費補助金基盤研究(B)